お客様へ生産者からのメッセージ

~家族の健康と共にあった、種の物語~

          
  よく「子どもが野菜嫌いで」「おばあちゃんが、野菜の味が昔と変わったと言っている」「昔の野菜より今の野菜は栄養が少ない」といような声を耳にします。では、「昔の野菜」と「今の野菜」は何が違うのでしょうか。それは即ち、生産する上での「目的」ではないかと思います。

 「昔」というのは戦前の日本。江戸時代は武士も、小さな畑を耕し自給自足が当たり前。「安心安全で、美味しくて栄養価がある野菜を、自分の家族に食べさせたい。」野菜は「売るもの」というより、「家族の健康と幸せのため」につくられてきたんですね。

それぞれの家庭で、野菜の種も自給されていました。お隣どうしでも茄子の形や味が違う、そんな各家庭の特徴が、「固定種」には出てきます。うちの農園でつくっている茄子も、同じ種類でも個性の違うもの、結構あるんですよ。面白いですよね!

 栄養価の面でも優れており、当農園の分析によると、例えば、茄子はポリフェノールやペクチン、ミネラル類など平均して高いものが多く、野菜の種の違いだけでも野菜の栄養価に影響することを確認できました。味も良いのが固定種のよさだと思っています。

 ところが、戦後の日本では農薬・化学肥料や大規模生産化、高度成長期の日本。
世の中のニーズが変わってしまたのか、綺麗なもの、かたちの揃ったものがよく売れるようになり、市場の野菜の90%以上はいわゆるF1種(エフワン)になっています。

F1種とは、人工的につくられた、もともと自然界には存在しない遺伝子をもつ、子孫を残すことができない種。味や栄養価よりも、とある病気や害虫に強くするため、形が揃い流通しやすく市場価値を上げるために、普及されてきました。このF1種を購入し、化学肥料と農薬を使う栽培方法が、現代の農業の主流であり、日本の農家さんの比率で言うと約99.8%に当たります。
 私のような農薬を使わない有機農家は、日本には0.2%しかいません。固定種を扱う農家さんとなると、更に確率は低くなります。

 昔の農家さんは、それぞれの家の伝統的な固定種を大事に継承してきましたが、今やその90%以上が消えつつあります。昔から、家族の健康を支える役割を持ち、大切にされてきた固定種の種を守っていきたい。その思いで、私は農業を続けています。

 また、当農園では、伝統的な農法にもこだわっています。畑に地力をもたせるため、森の落ち葉を使います。落ち葉は、森の中、特に原生林に近いところから収集します。落ち葉には、沢山の微生物がおり、土を最高に豊かにしてくれます。これが、昔の人の知恵です。農園や化学肥料など一切使用していませんが、元気な野菜がとれています。

 話は変わりますが、今の農業界を取り巻く状況は厳しいものがあります。農薬・化学肥料等のあらゆる資材の高騰、種も例外ではありません。また、化学物質を畑に使いすぎたことにより、地力が低下。結果として、採れる野菜の栄養価も下がりつつあります。離農する農家さんも増加の一途。今、より良い農業を未来を残すためには、どうすべきか考え直す時が来ています。

 日本人は世界に例を見ない、なんと一万年もの間、農業を続けてきた民族です。その間、この狭い土地で地力を落とさず、農業を守り続けて来たのです。当時栽培された野菜の、高い栄養価が日本の伝統野菜・農法がいかに優れているか証明しており、世界からも注目されています。私はこの日本の伝統的農業は、世界に誇るものと確信しています。現代の農業に足りないもの、取り入れるべきものは、正にここにあると思います。

 「家族と共にあった、伝統的な種と伝統的農法」を次世代へ継承し、それをもとにした「本当に持続可能な、現代の農業の新しい形」をつくること。それが、湘南小巻ファームの永遠のテーマとなりました。

 昔の人々の想いや叡智に学びながら、「家族が、そして日本の未来の子ども達が幸せになれる野菜」づくりを目指して、頑張っていきたいと思います。長文になりましたが、これからも宜しくお願い致します。


                   湘南小巻ファーム 農園主 小巻秀任



~農園主プロフィール~

1982年 神奈川県平塚市生まれ。幼い頃から祖父母と農業に親しむ。
東京農業大学を卒業後、民間の製薬会社に就職する傍ら休日を利用して兼業農家になる。その中で現代農業のあり方に疑問を持ち、自ら農薬と化学肥料に頼らない農法を模索。

2007年 「小巻農園」を設立。
祖父から譲り受けた農地1.5haを耕し始める。
2009年~2013年 様々な農家さんを訪問する中で、固定種の大切さに気付かされる。 そこから、日本各地を行脚し、農家さんを訪ねまわり、固定種を集める。 その数は400種類を超える。今は消えつつある固定種を自家採取し継承する活動を行う。

2015年 農業生産法人となり「株式会社湘南小巻ファーム」を設立。
2019年より、クレソン事業部及び、農福連携事業に着手。また、植樹活動などの環境保護事業も行う。

2022年、第8期目を迎える。同年10月、農園直売所をオープン。同じ頃、農園古民家にて「種の講座」を初めて行う。また、固定種や伝統農法の普及のためのコミュニティ「固定種守り育て隊」を発足する。現在の農地は約7ha。